カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州の雨が多く涼しい気候は、シトカ・スプルースの成長にとって最適な環境です。スプルースファミリーの一員であるシトカは、その密度、明瞭さ、そして色と音に優れている点から楽器に多く使用されています。しかし、すべてのシトカ・スプルースがその特徴を兼ね備えているわけではありません。その完璧な木材を探す作業に、奥の深さがあるのです。


スプルースにおける自然科学

マツの一種であるスプルースは、紙の素材として知られる常緑樹で、他に建物の建築や家具などでも使用されています。モミの葉とは違い、先が尖がっています。スプルースは北米の各地域や、ごく少数ですが世界各地でも目にする事ができます。最も一般的なものは、

・レッドスプルース
・ホワイトスプルース
・ブラックスプルース
・エングルマン・スプルース
・シトカ・スプルース
・シベリア・スプルース

スプルースは通常、針葉樹林(しんようじゅりん)に生え、裸子植物(らししょくぶつ)に分類されています。(裸子植物とは、胚珠(はいしゅ)が剥き出しになっている植物の事をいい、その対極が被子植物です)

すべての始まり

ブリティッシュ・コロンビアの気候はシトカ・スプルースの成長にとって最適な環境であることは先ほども触れましたが、良いギターのトップ材を作るためには気候以外にも様々な要素が絡んできます。楽器用に使用される木材は一般的に樹齢250年〜350年のものが多く、つまり以下の厳しい環境に耐えぬいたと言えます。

・未熟な段階での動物による侵食
・干ばつ
・雷
・山火事
・汚染
・人間

ちなみにこれらの木は一般的に3〜4回の山火事を生き残り、燃えた灰は来るべき次世代の木々の肥料となっています。話が若干それましたが、その中で適切な木を見つけたら収穫します。私達にとって木は森の長い歴史の一部であると考え、紙の素材として利用することや、無闇に伐採することには反対です。そういった理由から、木を厳選して収穫(つまり森全体を伐採するのではなく、1〜2本収穫するということです)し、他に嵐などの自然災害で倒れた木も積極的に利用します。

木は人間の手によってチェーンソーで切り落とされ、ヘリコプターで森から運び出されます。自然保護の観点から、道を作って重機で運び出すことはしません。自然の保護は、楽器に付加価値を与える大切な要素でもあります。

そして、ヘリコプターによって平地まで運びだされた木を確認し、グレードの選別が終われば木は薄く切られ、トラックで運び出されるか、川に流されロッグ・ブーム(木を溜める場所)の一部となります。


シトカ・スプルースの丸太

ラリビー工場

1997年に私達が300坪から900坪の土地に移動したことをきっかけに、残った小さい方の建物をスプルースとウェスタン・レッドシダ−の保管場所にしました。現在もこの工場は、材木の取り扱いにおいて経験豊富なジョン・ラリビーとムレ−・ウィンブルによって管理されています。ジョンの楽器用木材であるスプルースの知識と、ムレ−の製材業者としてのノウハウが活かされ、ここではラリビーだけではなく他ギターメーカーのギターのトップ材も製作しています。


木材工場にあるトップ材

前もって伐採された木は工場に運び込まれ、24インチの厚みの丸太にされます。ここで木が裂けないように湿らせておく必要があります。1日2回木に冷たい霧を吹きかけ、部屋は低温多湿に設定し、管理します。


丸太はくさびを使い分割します

丸太を手で4分割し、それぞれが9インチ幅になるようにします。すると、三角形のブロックが出来上がります(これらの三角形のブロックを繋げ合わせると円になります。)ブロックをすぐ使用する場合はそのままにしますが、しばらく寝かせて置く場合はゴムの塗料を塗ることで木が裂けるのを防ぎます。


分割されたスプルース

スプルースのブロックを切ると、手作業でトップ材を薄く切り取ります(手作業で行う事により丁寧に仕上がります)ブロックを一つ一つ丁寧にハンドソーで切り取り、仕上がったトップ材はペアで管理し、残った木はギターのブレ−シングに使用します。


シトカ・スプルースを切り、トップ材を作ります

切り出したトップ材を積み重ね自然乾燥させます。釜に入れて強制的に乾燥させる方法もありますが、あまりお勧めはしません。(早い段階で樹液が固まらないようにするためです。)トップ材は、1か月ほど寝かせた後で作業現場に戻します。さらに、作業現場の環境に馴染ませるために1週間寝かせます。


シトカ・スプルースを切り、トップ材を作ります